帆船模型を作ろうと思ったきっかけ
去年の6月から作り始めた帆船模型「サプライ号」がついに完成した!
この間、ロープ結びに嫌気がさして遠ざかっていたのが2ヶ月間、そして坐骨神経痛を患って何もできなった期間が3ヶ月。それでも諦めずに何とか最後までやり遂げたことで、大きな達成感を得られた。こういう気持ちって久しぶりかもしれないな。
それにしても、なぜ帆船模型を作ろうと思ったのだろう? 思い出してみると、2年前わが家のリフォームのために、4ヶ月ほどの賃貸生活を余儀なくされていた。不自由な暮らしで、しかも寒い時期で趣味も何もできなくて、毎日つまらない日々を送っていた。そんな休日の午後に、偶然に見たテレビ番組で帆船模型作りをしているオジさんのことが放送されていた。
帆船模型のことは、もちろん知ってたけど、あらためてネットで検索してみることにした。いろんなキットが販売されているんだなあ〜。さらにYouTubeで探してみると、世界中の人が作っている。面白そうだなあ、いいなあ〜。よしリフォームが終わったら、これをやろう! そう思ったのがきっかけだった。もともと物作り大好き人間のぼくだから、この当時はとにかく何かに挑戦したくてウズウズしていたんだよね。
このキットは中級者向け?
このサプライ号は中級者向けに近いキットらしい。まったく経験がないぼくがなぜこれを選んだのかというと、初心者だからと言って、初心者向けの簡単なキットをと探すと正直言って物足りないものばかりだったんだ。
「難しくてできなかったら、無理せずに諦めればいいじゃないか」そう割り切って自分が気に入った帆船を探した。とにかくいっぱいありすぎて迷ったんだけど、値段(27,000円)と難易度、そして何より格好良さでこのサプライ号に決定!
ところが、このサプライ号の説明書は殆ど機能せず、図面の間違いも多いし、何をどうしていいのか分からないことが多いキットだった。最初はとても戸惑った。イライラした。でも、途中から考え方が変わってきたんだよね。むしろぼくには合っているのかも、この方がずっと面白い、これが模型作りなんだなとわかってきたんだよね。
『このキットはとても不親切です。でもあなたの考え方しだいで、とても面白いものになるはずです。ぜひ、創造力と思考力を思いっきり発揮して作ってください』そう話しかけてきているように感じた。メーカーに尋ねてみたら、きっとそう答えると思う。
イギリスではキングオブホビー
日本のプラモデルを代表するような手作りキットは、懇切丁寧な説明や写真で分かりやすくしているのが当たり前。でも逆にいうとあまり考えなくてもできてしまう。
帆船模型のキットでもそういうものもあるけど、このイギリスのジョティカ社のそれは、帆船模型の歴史があるイギリスだからこそ、そういうものは必要ないと考えているように思える。
さらには驚いたことにジョティカ社のHPでサプライの説明をみると、『初心者のビルダーを念頭に置いて設計されています』とはっきり「初心者向け」と書かれている。つまり材料は正確にカットされているし、数々のパーツが揃っている。しかも「作るための親切な説明書や図面も揃っています」とまで言っているのだよ。
はは〜。つまりこのイギリスという国でキングオブホビーと言われる帆船模型作りの世界では、材料は自分で集めて、加工も自分でやって、パーツも自作するものなんだよ、ってことらしい。ま、そういう意味では初心者向けなんだろう……。
なんだかわかるような気がする。確かにその域に達すると世界感が違うんだろうなと思う。いや、それどころか、日本の先輩ビルダー達も「おいマーベルくんよ、これ初心者向けだよ」と鼻で笑っていることだろう。
船首部分は船の顔?
帆船の船首は顔のようなもの、つまり性格をあらわしてるように思える。この船はどちらかというと、丸くて穏やかな顔をしていて、これが選んだ理由のひとつでもある。それにこのキットには“帆” がない。帆船模型には帆が付いたものが多いのだけど、ぼくにはどうしても帆がない姿が格好良くみえた。
ここにある帆船模型の錨や大砲などの金属部分の多くは、スチールではなく「ハンダ合金」でできている。それがわかったのは何故かというと、作業ミスで錨を途中で折ってしまった。それで半田ごてでこの部分を繋ごうと思ってコテをあてたら、アッと言う間に溶けてしまった。あっこれハンダでできてるのかと(@_@)
結果的にサイズが違うけど、他社のパーツを取り寄せて、作りなおしたものを取り付けている。このように失敗して初めて発見することがあるのも面白いよね。
デッキの中央部分
甲板の板は1×4mmのタンガニカという白木を7センチの長さにカットして、1枚1枚敷き詰めている。何センチにカットするかは自分で決められるし、どういうふうに配置していくのかも自分で決められる。いっけん大したことない部分でも、自分の考え方が反映されるのが、帆船模型作りなんだということを教えてくれる。
そして、ここにある大砲と砲台。これを固定しているロープがあるけど、実際には説明書にも図面にもなかった。たまたま化粧箱の写真をみたら、それらしいものがあったので、たこ糸を3本にほぐして再現してみた。狭くてやり辛くとても苦労した部分だった。こんなのなくてもいいし、なくてもわからないんだけど、そういう部分が至る所にあるんだよ。
数々のロープと滑車群たち
マスト、ヤード、突き出たブーム、そして船体。そえぞれを繋ぐロープを縦横無尽に張り巡らしていく。9種類のロープと8種類合計250個の滑車を使って、これらを結んでいるんだよ。とにかく、これは途方もない作業だった。(そもそも総部品点数が全部で約1,200点もあるキットなんだよ)
しかも、すでに先に張ってあるロープがあって、それらに影響を与えないように、新しいロープを縫うように張っていく。さらには、もっと最初の方で滑車を取り付けておけば楽だったのに、今頃になって、ここに滑車を取り付けろというのかい?と指示があったりする。こういうときはもう笑うしかないよね…。
船尾部分からの眺め
帆船模型の船尾からの姿も美しくて好きだなあ。実際の帆船では乗組員がマストに登るときに使う「ラットライン」という細いロープ(これは付属の糸は使わずに会社にあったミシン糸を使った)、これを両手に持ったピンセットを使って、5mm間隔に1本1本、全ての交点をクラブヒッチで結んでいく。これがとにかく嫌になるくらい延々と続く作業になった。いくら慣れたとはいえ、間隔をきっちり守り、水平を保たないといけないので、ほんとしんどかった。
帆船作りの作業の最後に「SUPPLY」という白いエンブレムを貼った。この作業を最後の最後に取っておいたのは、これで全ての作業が終わるんだという儀式のようなもの。これを付け終えたときに「ふ〜、これで終わった…」、感無量の思いにしばらくのあいだ浸っていた。
帆船の美しいところ、実はココ
帆船模型の美しさは、デッキから上の部分ばかりが注目されるけど、ぼくは帆船の美しさは、この船体底の流線型にあると思っている。風の力を効率よく推進力に変えるために、水に対してより抵抗の少ないこの形こそが、本当に美しいんだと思う。
だから、ぼくがこの部分をみると感じるのは、美しい女性のボディラインのようなセクシーさなんだよ〜 (;´Д`)。英語では船のことを女性名詞で “She” と呼ぶ理由もこういうことなのかなあ?
この美しいラインを作るために、直線の細長い木を少しずつアイロンで曲げていって、折れないように細心の注意と集中力で、この美しいラインを作っていく。これはとても難しかった。でもだから面白いんだよね。
ということで、写真を見ながら思いついたことを少しだけ書いてみたんだけど、それぞれの部分で、まだまだいっぱい説明したいことがあるんだよ。実際にこれを見てくれた人がいたら、何時間でも話したいことがいっぱいあるよ。それくらい、いろんなことが詰まっているんだよね。
感無量の喜び
ともかく、今日は無事完成できたことに、おいしいワインで乾杯しよう!
この能登ワインはお客さんに教えてもらった「ヤマ・ソーヴィニヨン」という品種だよ。山葡萄とカベルネ・ソーヴィニヨンを交配させて作ったものだそう。いや〜、これ大好き! じつに旨い、ほんとに旨い!
一つのことを1年近くやり続け、何度も挫折しかけたけど、なんとか完成まで漕ぎつけた。その達成感はやっぱり特別なもの。以前ベニヤでシーカヤックを作ったときもそうだったけど、これを作っている間は他のことが手に付かない。そのくらいあれこれ頭の中で常に考えていて、時間があれば最優先でこれに取り組んでしまう。他のこともやりたいと思うんだけど、取り憑かれたようにやっぱりここに戻ってきてしまうんだよね。
ま、とにかく、自分で言うのもおこがましいけど、このできあがったサプライ号は実にカッコイイ! 惚れ惚れするくらい美しい! そしてよくここまでがんばったね!と誉めてあげたいくらいくらいだよ。(がんばらないのが信条のぼくなんだけどね)
帆船模型作りの次は?
そして今日、作業台を片付け、全ての道具たちもきれいに片付けてしまった。
もうこれからは帆船模型を作ることはないなと思うと、なんだか心にポッカリと大きな穴があいたように感じる。でもあの窓際にどっかと座っているサプライ号には、ぼくの思いがしっかり詰まっている。その存在は「ぼくがどう生きたのか」という一つの証なのかもしれないね。
スライドショー
最後にサプライ号を作った製作記のようなものを、3分ほどの動画にしてみたので、ぜひ観てくださいな。
ちなみにこの動画はMacに付いている写真管理ソフト「写真」と動画編集ソフト「iMovie」で作った。まずは、動画の長さを3分程度に決めて、数々ある写真の中からどれにするかを選び出し、PhotoShopでより綺麗な写真に仕上げる。そしてこれらにあうBGMも選び、スライドショーにしてみる。これでいいなと思ったら「スライドショーを作成」でm4v形式のデータで出力する。
このデータを「iMovie」で読み込み、テロップを入れたり、効果音を入れたりして編集する。最終的にmp4形式のデータにして、これをYouTubeにアップロードしてできあがった。こういうのを作るのも楽しい!
さて次は何をしようか
これで帆船模型作りが終わったので、次はカメラ? 色鉛筆画? ギターの練習? アマチュア無線? 読書? アウトドア? それとも上級者向けの帆船模型に挑戦する? もちろんそういう選択肢もあるとは思うけど、たぶんもう帆船模型作りはこれが最後だと思う。それよりも新しいことにどんどんチャレンジしていきたいと思ってる。
さあ、この秋、ゆっくりじっくり、いろいろ楽しんでいこうぢゃあないか。
最後に今までの体験記録は帆船模型作りの記事でどうぞ!